実験によっては、複数のシングルコロニー(単一クローン)が必要になる場合があります。例えば、

①染色体に仕組んだ薬剤耐性マーカーの除去の確認用

②プラスミドの脱落の確認用
(*培養温度で確実にプラスミドをキュアリングできる温度感受性複製(orits)のベクターが全ての宿主で使用できるわけではなく、宿主自体が温度感受性の場合や、温度感受性複製ベクター自体が使用できない場合など。E. coli BL21(DE3)StarのようなRNA代謝されにくい宿主である種の温度感受性オリジンのベクターでどうしても形質転換できなかった経験があります。複製様式と代謝されにくい異常なmRNAの蓄積との相性が合わないためだったのでは考えています)

  上記のような薬剤耐性による選択圧が使えない場合は、非選択培地で出現したコロニーを、薬剤含有プレートと通常プレートを用いた二重平板でのレプリカ法で確認することになります。この場合、確率的な出現頻度のため、ある程度の数のシングルコロニーがないと目的とするクローンが網(確率の網)にかかりません。

  コロニーカウント法では10段階の希釈系列の菌体懸濁液を調製して、複数のプレートに塗布します(いわゆる段階希釈法)。シングルコロニーをとるためにこの操作を実施すると、大量のプレートと希釈系列の試験管が必要になり、資源の浪費だけでなく、実験操作や洗い物の手間が増えます。試験管の代わりにマイクロチューブで希釈系列を作っても資源の浪費や労力に変わりありません。

  その一方、プレート上で菌株のシングルコロニーをピックアップするために、白金耳で一箇所に集中的に塗りつけてから、寒天培地の全体に希釈的な塗り広げる方法”画線培養法”は、誰もが日常的に頻繁に行っている操作です。この操作を菌体懸濁液(培養液そのものや遠心機で濃縮をかけたもの)とコンラージ棒(スプレッダー)と一枚のプレートで行うことで、資源・労力・時間の節約になります。

希釈塗り
プレート1枚上での”希釈塗り”の例

  具体的には20μlくらいの菌体懸濁液を寒天培地の半面に集中的に塗りつけて寒天培地に吸わせて十分に枯らしてから、2-3回くらい意図的に雑に掠れさせるように全面に塗り広げ、シングルコロニーを出現させます。この操作を”希釈塗り”(または不均一塗り、段階希釈法ではない)と呼んでいます。その昔、羊土社の実験医学という総説誌の「手抜き実験のすすめ」という福井 泰久先生の連載にでてきた方法です(後に単行本化)。

  また、ある種の遺伝子破壊株は、形質転換効率が異常に低い場合があります。予備実験などで形質転換体の出現頻度の手持ちの情報がない場合、あえて培養液を濃縮してから、希釈塗りでシングルコロニーを取得します。そうすることで、そのまま濃縮なしで塗ってもコロニーが出現しない場合から、寒天培地の全面がコロニーで覆われてしまう高頻度出現の場合までを含めた全レンジに対応して、シングルコロニーをピックアップすることができます。
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